供達が、四五人追いかけていた。のろくなると、皆は鈴なりに後へブラ下ってしまった。――自動車は農場の入口の管理人の家の前で、ガソリンの匂いをはいて、とまった。
 袖を軽く抑えて、着物の前をつまみ、もの慣れた身腰で、ひらりと奥様が降り立った。
「まア、とてもひどい自動車なこと!」――上品に眉だけをひそめた。
 続いて、一文字を手にして、当の主人が白絣に絽の羽織で、高い背をあらわした。その後からクリーム色の洋装した令嬢が降りた。後の自動車には、出迎えに行った村長、校長、管理人、それにH町の警察署長が乗っていた。
 小作達は思い、思いに腰をかがめて挨拶した。
「ハ、まア、よオく御無事様で……」
 佐々爺は手拭で顔をゴシゴシこすりながら、何べんも頭を下げた。もう身体中酒でプンプン匂っていた。人集りに出るときは、佐々爺は何時でも酒をやらないと、もの[#「もの」に傍点]が云えない癖があった。
「お前達も達者で何よりだ。――ま、一生ケン命やってくれ。」
 皆は一言、一言に小腰をかがめた。佐々爺は、小さい赭《あか》ら顔を握り拳のようにクシャ、クシャにしながら追従笑いをした。
「本当に、ご苦労ね。」
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