、俺達の忙がしい時にな、来てもらったらええにな。」
「働いてるどこば見てければな。」
「ん、ん、んよ。」
「奥様は何んでも女の大学ば出た人だと。」
「大学?――女の? ホオ!」
「とオても偉い、立派なひとだとよ。」
「女、大学ば出る? 嘘云うな、女の大学なんてあるもんか。……まさか、馬鹿ア、女が……。」
「んだべ、何んぼ偉いたって!」
一かたまり、一かたまり別な事を云っていた。
「な、旦那もう少し優しい人だら一生ケン命働くんだどもな。」
「働いだ事《ごと》無えから分らないさ。」
「今度《こんだ》あまり急で駄目だったども、こんな時あれだな、皆で相談ば纏めて置いてよ、お願いせばよかったな。」
阿部はみんなの云うのを聞いていた。――阿部には、今度「見物」に来るということをワザと管理人がその前の晩になって知らせた魂胆がハッキリ分っていた。二年程前、それで管理人が失敗していた。皆が普段からの不平を持ち寄って、岸野の旦那が来たとき、それを嘆願した。その事から大きな事件になりかけた事があったからだった。――で、今度は管理人に出し抜かれてしまった。
自動車の後の埃の中をベタベタな藁草履をはいた子
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