が同意した。
 ――小さい口論の渦が巻く。
 突然S村で、煙火が挙がった。
 真夏の高い青空に、気持よく二つにも、三つにもこだまをかえして、響き渡った。
「ワアッ!」
 由三達はカン[#「カン」に傍点]声をあげて、跳ね上った。
「さ、遅れたら大変だど!」
 皆はもと来た道を走り出した。遅れたのが、途中で下駄を脱いだ。
 岸野農場の主人が、奥様と令嬢同伴で、農場見物にやって来ることになっていた。――それが今日だった。
 東京にいる、爵位のある大地主も、時々北海道へやってきて、小作人や村の人達を「家来」に仕立てて、熊狩りをやった。
 ――S村では、村長を始め※[#「┐<△」、屋号を示す記号、276−上−15]の旦那、校長などは大臣でも来たように「泡を食って」いた。

     地主、奥様、御令嬢

 自動車二台が真直ぐな村道を、砂塵を後に煙幕のようにモウモウと吹き上げながら、疾走してきた。岸野農場の入口には百十七、八人の小作が、両側に並んで待っている。町へ一日、二日の「出面《でめん》」を取りに行っているものも休んで出迎えた。
 暑かった。皆は何度も腰の日本手拭で顔をぬぐった。
「もう少しな
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