市街地をよけて、畔道へ入って行った。
「だんだんこッたら事《ごと》ばかし仕《し》ていられなくなるど。」
別れる時健が云った。
節はだまって唇をかんだ。
健が家へ帰って床に入り、ウトウトしかけた頃、表のギシギシする戸が開いた。
「恵か?――又だな……。何処さ今頃迄けづ[#「けづ」に傍点]かったんだ?」
暑苦しいので寝られずにいた母親が、眼をさまして声をかけた。お恵はだまったまま上ってきた。寝床のそばで、暗がりに伊達巻を解くシュウシュウという音だけがした。
[#改段]
四
「嘘こけッ!」
同じ石狩川でも余程上流になっていたが、雑穀や米を運ぶために、稀《ま》れに発動機船がポンポンと音をさせて上ってきた。その音は日によっては、ずウと遠く迄聞えた。「ホ、発動機船だ。」何処にいる小作でも、腰をのばしながら音をきいた。
由三は村道を一散に走った。帯の結び目が横へまわって、前がはだけ、泥のはじけた汚い腹を出しながら、ムキになって走った。――発動機船の音をきいたのだ。他の子供も畔道を走ってくる、それが小さく見える。やがて村道で一緒になり、一緒に走り出した。
皆は堤
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