がな、こういう理由《わけ》だんだと。そんなのを禁ずればな、お互い気が荒くなっ……」みんな云わせないうちに、節がプッと吹き出してしまった。
「この糞ッたれ!」
健はそのまま口をつむんだ。然しすぐ又口を開いた。′
「な、仕事が苦しいべ、んだから何んかすれば直ぐ労働組合にひッかかって行くんだ。そうさせないためにするんだ――。」
「まアまア考えたもんだね。――んだら、わざわざ管理人さん達の肝入で出来た処女会[#「処女会」に傍点]はどうなるの?」
健は後向きになって、急に大きな声を出した。
「そうさ、裏が裏だから、表だけは立派にして置ぐのさ。やれ節婦だ、孝子だッておだてあげて、――抑えて置くのよ。そこア、うまいもんよ。」
「分らないわ。」
停車場のあるH町から通っている幌のガクガクした古自動車が、青白いヘッドライトを触角のように長く振りながら、一直線に村道から市街地に入ってきた。入口から、お客を呼ぶための警笛を続け様にならした。それが静かな市街地全体に響き渡った。――※[#「┐<△」、屋号を示す記号、274−上−16]の雑貨店から、ガラガラと戸を開けて周章てて誰か表へ飛び出した。
二人は
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