女が誰かに、くすぐられてでもいるらしく、息をつめてクックッと笑いこけているのが聞えた。が、二人の足音で、それがピタリとやんだ。草を掻き分ける音が続いた。
「な、節ちゃ。――此頃こんなに皆フザけてるんに、警察でなんで黙ってるか知ってるか。」
外の人は何故こう面白そうにして、夜会うんだろう。――それを今見せつけられて、節はこみ上ってくる感情を覚えた。
「地主の連中があまり厳しくしないでけれッて云ってあるんだとよ。」
無感動な男《ひと》だ、何を考えてるんだろう!――節は聞いていなかった。
「活動もあるわけでなし、そば[#「そば」に傍点]屋もなしよ、遊場もねえべ、んだから若い者が可哀相だんだとよ、どうだ?」――そう云って、自分でムフフフフフと笑った。「有難い地主さんだな……」
「ところがな、阿部さんが云うんだ。――阿部さんッてば、お前すぐ嫌な顔すべ。――阿部さんが小樽の工場にいた時なんて、工場の隅ッこさ落ちてる糸屑一本持って外さ出ても、首になったりしたもんだどもな、女工さんの腹ば手当り次第に大《で》ッかくして歩いても、そんだら黙ってるんだとよ。」
「まさか?……」
「だまって聞け。――それ
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