事が、「小作人よ、欺されるな。」という標題のビラにされていた。
「……あんなにしてやったのに、ビラば配るなんて恩知らずだッて、怒ってるワ。」
「誰だ?」
「……………」
「お前もだべ?――んだべ。」
「……誰でもさ。」
「こけッ!」
 二人とも、かたくなに黙り込んでしまった。
「な、節ちゃ。」――調子が変っていた。「節ちゃは、あれだろう。俺、模範青年になってる方がええんだべ。」
 健は節を「お前」と云ったり、「節ちゃ」と云ったりする。「節ちゃ」という時は、何か真面目なことを心に持っている時に限っていた。――節はそれを知っている。
「健ちゃだもの、滅多なことしねッて、わし[#「わし」に傍点]思ってるわ。んでも淋しいの……。皆が皆まで健ちゃば見損った、見損ったッて云うかと思えば……。」
「節ちゃ、そう云っても、岸野の農場で阿部さんや伴さんさ誰だって指一本差さねえんでねえか。」
「それアんだわ。良え人ばかりだもの……。んでも阿部さんば煙ぶたがってるわ。」
「小作で無《ね》え人はな。――俺達第一小作だからな。」
「変ったのね……。」
「模範青年の口から、そったら事聞くと思わないッてか?」
 健
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