云った。
やっぱり節だ。――短い言葉に節がすっかり出ている。健は急に節がいとおしく思われた。健は怒ってでもいるように、無骨に、女の肩をグイと引き寄せると、いきなり抱きすくめた。はずみで、足元の砂がズスズスッと、めり込んだ。
節は何時ものように、歯をしめたままの堅い唇を、それでも心持ちもってきた。女の唇からは煮魚の、かすかに生臭い匂いがしていた。
「何食ってきたんだ。口ふけよ。」
節は真面目な顔をくずさずに、子供のように袖で口をぬぐった……。
二人は草を倒して敷いて、その上に腰を下した。こっちの焚火が映って、向う岸の雑木林の明暗が赤黒く、ハッキリ見えていた。
「健ちゃ、阿部さん好き?」
「……阿部さんのどこさあまり行《え》ぐなッて云いたいんだべ。」
「……………」
「んだども、ま、阿部さんや伴さんど話してみれ。始めは、それア俺だって……」
「良《え》え人だわ、二人とも。んでも……この前の会のことで、ビラば一枚一枚配って歩いたべさ。あれでさ……」
――「相互扶助会」が本当は何のために建てられ、黒幕には誰と誰がいて、表面如何にもっともらしく装っていても、裏には裏のあること、それ等の
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