持悪く脛に当る細道を抜けて、通りに出た。道の傍らには、節を荒けずりした新らしい木の香のする電柱が、間隔を置いて、何本も転がさっていた。――もうしばらくで、この村に電燈がつくことになっていた。毎日「停車場のある町」から電工夫が、道具をもって入り込んできた。一本一本電柱が村に近くなってきた。子供達はそれを何本、何本と毎日数え直して、もう何本で村に入るか、云い合った。皆は工夫達の仕事をしているところに、一日中立ってみていた。
「お前え達のうちに姉のいる奴いるか?」
子供たちははにかみ笑いながら、お互に身体を押し合った。
「此奴《こいつ》にいるんだよ。」――一人が云う。「な!」
「ん、ん。」
「んか、可愛《めんこ》いか?――晩になったらな、遊ぶに行《え》ぐってな、姉さ云って置げよ。ええか。」
と、皆は一度にヤアーと笑い出してしまう。――子供達は、何時迄もそうやっているのが好きだった。日が暮れそうになって、ようやく口笛を吹きながら、棒切れで道端の草を薙ぎ倒し、薙ぎ倒し、村道を村に帰ってきた……。
通りを三町程行くと、道をはさんで荒物屋、郵便局、床屋、農具店、種物屋、文具店などが二、三十軒並
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