んでいる「市街地」に出る。――由三は坊主頭と両肩をジュク[#「ジュク」に傍点]ジュクに雨に濡らしたまま走った。
 軒下に子供が三、四人集って、「ドンドン」をやっていた。由三はランプの台を持ったまま側へ寄って行った。
┌「ドンドン、ドン!」
└「ドンドン、ドン!」
「中佐か?――勝ったど! 少将だも。」
 相手は舌で上唇を嘗めながら、「糞!」と云った。
┌「ドンドン――ドン!」
└「ドンドン、アッ一寸待ってけれ。」――何か思って、クルリと後向きになると、自分の札の順を直した。
┌「ドンドンドン!」
└「ドンドンドン!」
「中将!」
「元帥だ!――どうだ!」いきなり手と足を万歳させた。
「あ、お前、中将取られたのか?……」――側の者が負けたものの手元をのぞき込んだ。「あと何んと何に持ってる?」
「黙ってれでえ!……負けるもんか。」
「お、由、組さ入らねえか?」――勝った方が云った。
「入れでやるど、ええべよ。」
 由三はやりたかった。然し今迄一度だって「ドンドン」を買って貰ったことがなかった。――由三はだまっていた。
「無えのか?」
「由どこの姉、こんだ札幌さ行ぐってな。」
 一人が軒下か
前へ 次へ
全151ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング