。――「な、姉、この犬どうなるんだ?」
「姉なんか分らない。」
「よオ――」
「うるさい!」
「よオ――たら!――んだら、悪戯《いたずら》するど!」
健は炉辺に大きく安坐をかいて坐った。指を熊手にして、ゴシゴシ頭をかいた。
家の中は、長い間の焚火のために、天井と云わず、羽目板と云わず、ニヤニヤと黒光りに光っていた。天井に渡してある梁《はり》や丸太からは、長い煤が幾つも下っていて、それが下からの焚火の火勢や風で揺れた。――ランプは真中に一つだけ釣ってある。ランプの丸い影が天井の裸の梁木に光の輪をうつした。ランプが動く度に、その影がユラユラと揺れた。誰かがランプの側を通ると、障子のサン[#「サン」に傍点]で歪んだ黒い影が、大きく窓を横切った。ランプは始終ジイジイと音をさせて、油を吸い上げた。時々明るくなったかと思うと、吸取紙にでも吸われるように、すウと暗くなった。
「さっきな、阿部さんと伴さん来てたど。」
「ン――何んしに?」
「なア、兄《あん》ちゃ、犬ど狼どどっち強《つ》えんだ。――犬だな。」
「道路のごとでな。今年も村費が出ねんだとよ。」
「今年もか――何んのための村費道路[#「村
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