助が云った。
「んか……」
「お前え、それから岸野がワザワザ小樽から出てきて、とッても青訓や青年団さ力瘤《ちからこぶ》ば入れてるッて知らねべ。」
「んか?」
「阿部さんや伴さんが云ってたど。――キット魂胆があるッて。」
「ん?」――健にはそれがハッキリ分らなかったが――何か分る気持がした。

     「熱ッ、熱ッ、熱ッ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」

 健は足を洗いに、裏へ廻った。湿った土間の土が、足裏にペタペタした。物音で、家の中から、「健かア――?」と母親が訊いた。
「う。」――口の中で返事をしながら、裾をまくって、上り端に腰を下した。――厩《うまや》の中から、ムレ[#「ムレ」に傍点]た敷藁の匂いがきた。
 由三はランプの下に腹這いになって、両脛をバタバタ動かしながら、五、六枚しかついていないボロボロの絵本を、指を嘗め嘗め頁を繰っていた。
「姉、ここば読んでけれや。」
 由三は炉辺でドザ[#「ドザ」に傍点]を刺していた姉の肱をひいた。
「馬鹿ッ!」
 姉はギクッとして、縫物をもったまま指を口に持って行って吸った。「馬鹿ッ! 針ば手さ刺した!」
 由三は首を縮めて、姉の顔を見た
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