。然し頭を抑えられているように低かった。何かの拍子に、雨に濡れた叢がチラチラッと光った。
「もう一番[#「一番」に傍点]終ったか?」――後から七之助が言葉をかけた。
 健はたまらなく眠かった。「ええや、まだよ、人手がなくなってな。」
 誰かがワザと大きくあくび[#「あくび」に傍点]をした。
「健ちゃは兵隊どうだべな。」
「ん、行かねかも知らねな。……んでも、万一な。」
「その身体だら行かねべ。青訓[#「青訓」に傍点]さなんて来なくたってええよ。」
 すると今迄黙っていた武田が口を入れた。――「徴兵の期間ば短くするために青訓さ行《え》ぐんだら、大間違いだど!」
 初まった、と思うと、七之助はおかしかった。
「あれはな、兵隊さ行ぐものばかりが色々な訓練を受けて、んでないものは安閑としてるべ、それじゃ駄目だッてんで、あれば作ったんだ。兵隊でないものでも、一つの団体規律の訓練をうける必要はあるんだからな。」
「所で、現時の農村青年は軽チョウ浮ハクにして、か!……」
 七之助が小便しながら、ひやかした。叢の葉に、今迄堪えていたような小便が、勢よくバジャバジャと当る音がした。
「ん。」――武田が真
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