面目にうなずいた。
恐らく、どんな労働者よりも朝早くから、腰を折りまげて働いている百姓が、都会の場末に巣喰っている朝鮮人よりも惨めな生活をしている。それでも農村の青年は「軽チョウ浮ハク」だろうか。――これ以上働かして、それでどうしようというのだ。――健は、出鱈目を云うな、と思った。
「七《しっ》ちゃ、小樽行きまだか。」
「ん、もうだ。」
「もうか?」
又、七之助とも離れてしまわなければならないか、と思うと、健は淋しかった。――健の好きなキヌも札幌へ出て行っていた。製麻会社の女工に募集されて行ったのだった。然し、それが一年しないうちに、バアの女給をしているという噂になって、健の耳に戻ってきた。
……話が途切れると、泥濘《ぬかるみ》を歩く足音だけが耳についた。田の水面が、暗い硝子板のように光ってみえた。
七之助はとりとめなく、色々な歌の端だけを、口笛で吹きながら歩いていた。七之助も何か考え事をしている。
「三吾の田、出が悪いな。」――七之助が蹲んで、茎をむしった。
「三吾も不幸ばかりだものよ。」
――三吾が自分のでもない泥炭地の田を、どうにか当り前にしようと、無理に、体を使った。
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