にして、剣をさげたまま、小便をしていた。それが田に働いている小作達に見えた。暇になると、小作の家へやってきて話して行った。――然し一度岸野の小作達が小作料のことで、町長へ嘆願に出掛けたことがあってから、小作人達のところへは、プッつり話しに来ないようになってしまった。そのことでは随分噂が立った。「岸野から金でも貰ったべよ。」と云った。
以前、殊に親しくしていた健の母親はうらんだ。
「随分現金だな。」――然し石田さんに限って、そんな「噂」はある筈がない、と云っていた。
石田巡査はそれから※[#「┐<△」、屋号を示す記号、256−下−16]や吉本管理人と村道を、肩をならべて歩くのが眼につき出した。
――※[#「┐<△」、屋号を示す記号、256−下−19]の荒物屋からは、どんな小作も「店借《たなが》り」をしている。
一年のうち、きまった時しか金の入らない百姓は、どうしても掛買しか出来ない。それに支払は年二回位なので、そこをツケ[#「ツケ」に傍点]目にされた。現金なら五十銭に売り、しかもそれで充分に儲けているものを「掛」のときには五十七、八銭にする。どの品物もそうする。小作人はそれが分
前へ
次へ
全151ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング