の奥地は「冬」になったら、ロビンソンよりも頼りなくなる。食糧を得ることも出来ず、又一冬分を予め貯えておく余裕もなく、次の春には雪にうずめられたまま、一家餓死するものが居た。――石狩、上川、空知の地味の優良なところは、道庁が「開拓資金」の財源の名によって、殆んど只のような価格で華族や大金持に何百町歩ずつ払下げてしまっていた。「入地百姓――移民百姓」は、だから呉れるにも貰い手のない泥炭地の多い釧路、根室の方面だけに限られている。
「開墾補助費」が三百円位出るには出た。然し家族連れの移住費を差し引くと、一年の開墾にしか従事することが出来なくなる。結局「低利資金」を借りて、どうにか、こうにかやって行かなければならない。――五年も六年もかかって、ようやくそれが畑か田になった頃には、然しもう首ッたけの借金が百姓をギリギリにしばりつけていた。
何千町歩もの払下げをうけた地主は、開墾した暁にはその土地の半分を無償でくれる約束で、小作人を入地させながら、いざとなると、その約束をごまかしたり、履行しなかった。
健の父は二年で「入地」を逃げ出してしまった。「移民案内」の大それた夢が、ガタ、ガタと眼の前で
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