恵は髪に油をテカテカつけたしゃれ男[#「しゃれ男」に傍点]とブラブラしていた。
「兄ちゃば皆偉いッて云ってるど。」
 健が遅く帰ってくると、腹這いになって、講談本を読みながら、見向きもしないで、ヘラヘラした調子で云った。
「この恥ざらし!」
「んだから偉いんだとさ。」
 健はだまった。
 彼は自分の妹や母親のことでは、どの位阿部や伴に肩身が狭いかわからなかった。
[#改段]

    十一


     「千回もやってくれ」

 第一回の「岸野小作争議演説会」が町の活動小屋で開かれた。――各農場相手に生活をしている町民や、他の農場の小作達も遠いところから提灯をつけてやって来た。
「割れる程」入った。
 健は始めて「演壇」に上がった。壇へ上がると、カッと興奮してしまった。途中で、何を云ったか分らなくなってしまった。分らなくなると、周章てるだけだった。――時々、拍手と、「分った分った」「もうやめれ!」「その通り!」そんな野次の切れ端しを覚えているだけだった。下りて裏へ行くと、キヌの妹が、
「上出来だよ、健ちゃ!」と云った。
 演説会は大きな反響を起した。――それから一週間もしないうちに、他
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