小作は毎日毎日の飯米にさえ困った。納屋には米俵がつまさっている。何十俵も積まさっている。何十俵という米俵が積まさっていて、そして飯が食えなかった。
「少しでも手をつけると罪人だぞ。」
 巡査が時々廻ってきた。まるで岸野から言伝《ことづか》って来たようだった。――小作人は「罪人」と云われると、背中がゾッとした。
 H町からの帰り、母親と由三が薄暗くなったのを幸いに、所々の他人《ひと》の畑から芋や唐黍を盗んできた。――前掛けの端を離すと、芋、唐黍、大根が一度に板の間にゴトンゴトンと落ちた。
「兄ちゃさも、恵にも云うんでねえど!」
 家のなかに上ると、母親はさすがにグッたりした。――とうとう泥棒をしてしまった、と思った。
「……んでも泥棒させるのは、岸野さんだ。……ええワ、ええワ!――何アに……。」
 横坐りになると、そのまま何時迄もボンヤリした。
「母、俺ら学校の帰り何時でも取ってくるか?――由何んぼでも、見付からないように盗《と》れるワ。」
「馬鹿!」――母親はいきなり叱りつけた。
 食えなくなった小作達は、だまっていても、伴のところへ代る代る集ってきた。小作調停のことは、それで思ったよ
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