! 役場の人! 鞄! 一瞬一瞬のひらめきのように、いきなり健の眼をくらました。
「気の毒だが、小樽からの命令で、小作米を押えるから。」
吉本は戸口に立ったきりの健に、憎いほど落着いた低い声で、ゆっくり云った。
――健はだまって裏へまわった。皆はゾロゾロついてきた。母親はオロオロして、吉本や特に親しかった巡査の後から同じことを何度も云った。
「お母さん、どうも仕方がないんだ。」
巡査はうるさそうに云った。
[#改段]
十
「小作調停裁判」
又順序をふんだ!
こうなると、健がジリジリした。――「小作調停裁判」を申請するというのだ。
「分りきった無駄足を何故使うんだ。」健はハッキリそう思った。――何んと云ったって、阿部も伴もやっぱり年寄りだ、とさえ思った。
然し、ただ、今迄とはちがって、兎に角「表へ出る。」――所謂《いわゆる》社会的な地位のある人は、案外表へ出ることを嫌う。そこを衝いてみる必要がある――阿部も伴もその事を考えていた。
差押えを受けてから、小作人もちがってきた。「モウ親も子もあるもんか。」――一番おとなしい小作さえ口に出して云った。
――
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