呼んでひろまって行った。
 七日、「第一回真相発表演説会」を開く。出演弁士相次いで「中止」、直ちに「検束」を喰らい、警察送り五名に達した。――だが、聴衆は場外にあふれて、所々に乱闘騒ぎを起した。――市民の同情動く。
(七之助。――伴さんは「中止」とか「注意」に慣れていないので、「中止!」と云われてから知らずに二三言しゃべってしまった。それでいきなり壇から引きずり落されてしまった。
 組合の竹畑が検束になった。それに対して書記長の太田が抗議をしかけたら、「生意気な、この野郎!」とばかりに、その場で滅茶苦茶になぐられた。――組合に帰ってから、伴さんや阿部さんは何処かしょげ[#「しょげ」に傍点]こんでしまった。無理もないかも知れない。
「な、七ちゃん、こんな工合で一体どうなるんだべ!」――伴さんが云うのだ。
 初めての「凄さ」で、おじけついたのだ、と組合の人が云っていた。
「これでまア、然しよくやめもしないものだ。」伴さんには組合の人達の方が分らないらしい。)

 小樽からは、一日も早く争議団の「青年部」と「婦人部」を組織するように指令が来た。婦人部は伴と阿部の細君とキヌの妹が先きに立って働き出した。
 第一回の「情勢報告[#「報告」は底本では「報吉」]」の演説会を開いた。――健はだんだん面倒な仕事に自信が出来て来た。
「どうして節ちゃんにも仕事をして貰わないの?」
 キヌの妹はそんな事を云い出してきた。

 情報、四
 岸野の邸宅、店舗、其他には番犬が急に殖えた、その番犬は帽子をかぶり、剣をさげている。――こうなればハッキリしたものである。小作人代表の交渉附添いに行った組合の武藤君は、番犬に噛みつかれてすぐ検束された。
 交渉に対して、岸野は飽くまで「正式交渉」を拒み、「交渉の代表」を認めない。
 次席警部は武藤君に対して、「警察は如何にも君等の言う通り、資本家の走狗だ。その積りで居れ。」とハッキリ云った。
 一日二回「共同委員会」を開催して、刻々の情勢に対して、策を練っている。

 情報、五

  寄附左ノ如シ。
 白米五俵         (日本農民組合××部外三)
 行カレヌ、労農提携ニ
 ヨル勝利ヲ天下ニ示セ   (大阪農民組合本部)
 岸野搾取魔ヲ徹底的ニ
 ヤッツケロ        (日農××支部)
 五円八十銭        市内運輸労働者四十一名
 弐銭切手四十枚      一労働者
 鶏卵七個         〃

 阿部からの手紙。――応援金を少しでもいいから送ってくれるように運動して貰いたい。そうすれば労働組合や農民組合連合会の人達に対しても面目が立ち、同時に争議団一行の元気を一層引き立てることが出来るから、皆で相談の上至急お願いしたい。
 七之助。――阿部さんは、どうして我々百姓の争議に無関係な小樽の労働者達が、(組合員はまずとして)仕事を休んでまでも、そして警察へ引ッ張られて行って、殴られて迄も応援してくれるのか分らない、と涙を光らせながら話した。お互い貧乏な労働者から、毎日のように寄附が集ってくる、それも不思議でならない、と云うのだ。
「矢張り貧乏人だからよ。――地主と資本家とでは変っておれ、お互いに金のある奴から搾られていることでは同じからよ。」
「それアそうださ。んでも……こんなに……」――仲々分らない。
 とにかく、俺さえ吃驚する程、労働者が戦ってくれている。めずらしいことだ。――やっぱり労働者と百姓は、底の底では同じ血が通っているんだ。
 争議が長びくかも知れないから、と云うので、そっちから馬鈴薯五俵送ってきたのを見て、組合員が泣いたよ。米でなくて薯だって! 食うや食わずで仕事をしている労働組合員でも、薯を飯の代りにはしていない。――百姓ッてものが、どんなに低い生活をしているか、而もそれでいて、どんなに飢えなければならないか!
 武藤などは、この「薯」のことだけでも、飽く迄[#「飽く迄」は底本では「飢く迄」]戦い抜かなければならないと云っている。

 情報、六
 出樽以来二週間に達した。争議団のうちの小作人で、最初日和見のものも随分いたようであったが、日々の交渉、集合による訓練、労農党員の「社会問題講座」の開設等によって、(これは忙しい合間合間に行われたが、その効果では著しいものがあった。)次第に意識的、階級的立場に教育され、ビラ撒き其他の運動に積極的に「動員がきいてきた。」
 争議団からは二名、「労農共同委員会」に委員が出ているが、更に「交渉」「訪問」「文書」「会計」の部門にも、これを編入し、組織的に、活動に従事させている。

 健は、情報や個人個人から来る詳しい手紙や毎朝の新聞で、争議がどういう風に進んでいるか、大体の見当はついていた。――其処ではどんな恐ろしい事が毎日起っているとしても、(
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