の事を文句も順序も同じに繰りかえして、進は腕のいゝ旋盤工で、これからどの位出世をするのか分らない大事な一人息子だからと云って、大きな蒲団を運んできたり、暖かい煮物の丼を大事そうに両手にかゝえて持ってきたり、それを特高が拒ばもうがどうが、がなり[#「がなり」に傍点]立てゝ、無理矢理置いて行く。そして次の日には又マントを持ってきたり、手袋を持ってきたりする。特高室は上田のお母アの持ってくるもので一杯になってしまった。警察では「又、気狂いババ[#「気狂いババ」に傍点]が来た」といって取り合わなかった。それでもお母アは平気だった。――あまりやかましいので、一度特高室で進と面会をさしてやった。息子が係りの刑事に連れられて、入ってきたのを見るや否や、いきなり大声で「こン畜生! この親不孝の馬鹿野郎|奴《め》!」と怒鳴《どな》りつけた。刑事の方がかえって面喰らって、「まあ/\、こういう時にはそれ一人息子だ。優《やさ》しい言葉の一つ位はかけてやるもンだよ。」すると、くるりと向き直って「えッ、お前さんなんて黙ってけずかれ[#「けずかれ」に傍点]!」とがなりかえした。ところが、その進が右手一杯にホウ[#「
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