ホウ」に傍点]帯をしているのを見付けて、「どうしたんだ?」ときいた。「ん、しもやけ[#「しもやけ」に傍点]だ。」と進が返事をすると、見ている間に、お母アの眼がつり上がって、薄い唇がピリピリと顫《ふる》え出した。「さ、警察の人ッ! どうしてくれるんだ? 人民を保護するとか何ンとか、口ではうまい事云って、この大事な息子の身体をこんなことにしてしまって、どうする積《つも》りなんだッ! さッ!」特高たちは、あ、又始まったと云って、自分たちの仕事にとりかゝって、見向きもしなかった。

 検挙は十二月一日から少しの手ゆるみもしないで続いた。そっちにいるお前はおかしく思うだろうが、残された人達が「戦旗」の配布網を守って、飽く迄も活動していた。然し、とう/\持って行き処のなくなったその人達は最後に、重要書類と一緒に家へ持ってきた。もうやられているので、二度も「ガサ」が無いだろうと云うのだ。六十に近いお前のお母はそれをちアんと引受けた。淋しいだろうと云うので、泊りにきていた親類の佐野さんや吉本さんが、重ね重ねのことなので、強こう[#「こう」に傍点]に反対した。だが、お前の母は、「この仕事をしている人達は
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