お母さんが靴を出してやらないと妙にウロ/\したり、帽子をかぶるのを忘れて、あわてたそうよ。
 夜が明けてから、お前が可愛がって運動に入れてやった「中島鉄工所」の上田のところへ、母が出掛けて行ったの。若しも上田の進ちゃんまでやら[#「やら」に傍点]れたとすれば、事件としても只事でない事が分るし、又|若《も》しまだやっ[#「やっ」に傍点]て来ていないとすれば、始末しなければならない事もあるだろうし、直《す》ぐ知らせなければならない人にも、知らせることが出来ると思ったからである。争われないものだ、お前の母は今ではこういうことに気付くのだ。――母がたずねて行くと、薄暗い家の奥の方で、進ちゃんのお母さんが髪をボウ/\とさせ、眼をギラ/\と光らせて坐っていた。母が入ってきたのを見ると、いきなり其処《そこ》へ棒立になって、「この野郎[#「野郎」に傍点]ッ! 一歩でも入ってみやがれ、たゝッき殺すぞ!」と大声で叫んだそうだ。母は何が何んだか、わけが分らず、「あのね…………」と云い出すと、「畜生ッ! 入るか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と云って、そこにあったストーヴを掻《か》き廻《まわ》す鉄のデレッ
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