うでなくても小さい母は、モット小さくなってしまった。
山崎の「ガラ/\のお母さん」のところへ行った[#「行った」は底本では「行たっ」]のも、やはり同じ時間だったそうである。このガラガラのお母さんは、前からその朝来ることが、分っていたかのように、「それ、秀夫や、来たど! 起きるんだ。」と云って、息子を揺り起し、秀夫さんが入口でスパイと何か云っている間に、ガリ[#「ガリ」に傍点]板を手早く便所の中に投げ捨てゝしまった。そして「サア/\、何処ッからでも見てけさい[#「けさい」に傍点]!」と云って、特高を案内したそうである。お前には、「サア/\何処《どこ》からでも見てけさい!」と云ったあのお母さんを直ぐ思い出すことが出来るね。スパイの連中が帰りがけにストーヴのお礼を云ったら、「そッたらお礼ききたくもない。それよりお前さんらサッサとこの商売をやめねば、後で碌《ろく》でもないことになるよ。」と云ったので、秀夫さんまでそれには笑ってしまったそうだ。――ところが、秀夫さんの方が何かと云うのに舌が口にねばり、乾いたせき[#「せき」に傍点]払いをして、何時《いつ》もとちがった声を出し、下り口に立っても、
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