涙が一杯にたまっていた。上田のお母アは自分のことのように喜んだ、「山崎の息子さんは執行猶予で出るよ!」――次はお前の妹だ。「私は今でもちっとも変りません。*********心積りです。」とはっきりと答えた。裁判長は苦りきった顔をした。妹はそして椅子に坐る拍子に、何故か振りかえって、お母さんの顔をちらッと見た。母は後で、その時はあ――あ、失敗《しま》ったと思ったと、元気のない顔をして云っていた。横に坐っていた上田の母が、「まア、まア、あんたとこの娘さんにもあきれたもんだ」と、母に云った。「お前さんも心配の絶えない人だ!」、そう云われて、お前の母は思わず「本当に……!」と云った。そして母は涙を一生ケン命こらえていたそうである、それからようやくのことで、「矢張り仕方がないんでしょう。」と云った。
 上田の進さんの番になると、お母アは鼻をぴく/\さした。骨組の太い上田が立ち上がると、いきなり、「われ/\の同志であり、先輩である山崎君の*****に私は**を***ものである。もはや山崎は同志でもなく、先輩でもない!」と前置きをして、自分は山崎のように学問もないが、私自身が*****いる*****
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