て、立ち止まったが、しばらくキョトンとしてるんだ。こら、お母アだ! と云うと、ようやく分ったのか、笑ったよ。ところが、ついていた巡査が立ち止まっちゃいかんと云って、待たしていた自動車の中に無理矢理押し込んでしまったんだ。俺くやしかったよ! それから俺毎日ケイサツさ行って、お前えら俺の息子ば殴《な》ぐったんだべ。さ、いッくらでも殴ぐれ、今お前えらば訴えてやるからッて怒鳴ってやった。んでも、何んぼしても面会ば許さないんだ。それから裁判所へ廻ってから面会させてもらったら、その時はホウ[#「ホウ」に傍点]帯ば外していたがどうしたんだと訊いたら、看守の方ば見て、耳が悪かったんだと云うんだ。俺、うそこさ[#「こさ」に傍点]ッて云ってやった。それから話していると、まるでトッチンかんのことばかり云うんでないか。お前何時頃出れるか分らないかときいたら、ハイお母さん有難うございますッて云うんだよ。俺びっくりしてしまった。これ、進や、お前頭悪くしたんでないかッて云ったら、お母アの方ば見もしないで、窓の方ば見たり、自分の爪ば見たりして、ニヤ/\と笑うんだ……。」そこまで来ると、上田の母は声をあげて泣き出した。
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