夫に会って来たことを話した。
 赤ん坊の顔を見て、「後取りが出来た、これで俺も安心だ」と云った所に話が行くと、皆は息をのんだ。誰かゞソッと側の方を向いて、鼻をかんだ。ある者は何か云おうとしたが、唇がふるえて云えなかった。皆は一言も云わなかった。――然し皆の胸の中には固い、固い決意が結ばれて行った。
         *
 メリヤス工場では又々首切りがあるらしかった。何処を見ても、仕事がなくて、食えない人がウヨウヨしていた。お君はストライキの準備を進めながら、暇を見ては仕事を探して歩いた。この頃では赤ん坊の腹が不気味にふくれて、手と足と頸が細って行き、泣いてばかりいた。――お君は気が気でなかった。――何事があろうと、赤子を死なしてはならないと思った。
 資本家は不景気の責任を労働者に転嫁して、首切りをやる。それを安全にやるために、われ/\の前衛を牢獄につないで置くのだ、――今になって見ると、お君にはそのことがよく分った。メリヤス工場でもその手をやっていたのだ。今夫が帰って来てくれたら!
 職業紹介所の帰りだった。お君はフト電信柱に、「共産党の公判が又始まるぞ。ストライキとデモで我等の前衛
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