っかりアスファルトに変っていた。随分長い間あそこに坐っていたのだという事が、こと新しい感じになって帰ってきた。
 新宿は特に帰えりに廻わってもらうことにして、自動車は淀橋から右に入って、代々木に出て、神宮の外苑を走った。二人は窓硝子に頬も、額も、鼻もぺしゃんこに押しつけて、外ばかりを見ていた。青バスの後に映画のビラが貼られているのを見ると、一緒の同志が「出たら、第一番に活動を見たいな。」と云った。
 時代錯誤な議事堂の建物も、大方出来ていた。俺だちはその尖塔《せんとう》を窓から覗きあげた。頂きの近いところに、少し残っている足場が青い澄んだ冬の空に、輪郭《りんかく》をハッキリ見せていた。
「君、あれが君たちの懐《なつか》しの警視庁だぜ。」
 と看守がニヤ/\笑って、左側の窓の方を少しあけてくれた。俺ともう一人の同志は一寸顔を見合せた。――警視庁と云えば、俺は前に面白い小説を読んだことがあった。
 警視庁の建築工事に働きに行っている労働者の話なんだが、その労働者がこの工事をウンと丈夫に作っておこうと云ったそうだ。ところが仲間に、よせやい、自分の首を絞めるものではないか、いゝ加減にやッつけて
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