そして揃えて出した俺の両手首にそれをはめた。鉄の冷たさが、吃驚《びっくり》させる程ヒヤリときた。
「冷てえ!」
俺は思わず手をひッこめた。
「冷てえ?――そうか、そうか。じゃ、シャツの袖口をのばしたり。その上からにしよう。」
「有難《ありが》てえ。頼む!」
「こんな恰好見たら、親がなんて云うかな。不孝もんだ!」
年を取って指先きが顫えるらしく、それにかじかん[#「かじかん」に傍点]でいるので、うまく鍵穴に鍵が入らずガチャガチャとそのまわりをつッついた。向い合いながら、俺はその前こゞみになっている看守の肩を見ていた。
その日の出廷はもう一人いた。小柄な瘠せた男で、寒そうに薄い唇の色をかえていた。「第二無新」の同志らしかった。
俺は半年振りで見る「外」が楽しみでならなかった。護送自動車が刑務所の構内を出てから、編笠を脱ぎ、窓のカーテンを開けてもらった。――年の暮れが近く、街は騒々しく色々な飾をしていた。処々《ところどころ》では、楽隊がブカ/\鳴っていた。
N町から中野へ出ると、あののろい[#「のろい」に傍点]西武電車が何時のまにか複線になって、一旦雨が降ると、こねくり返える道がす
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