カタンと音がして、外の廊下に独房の番号を書いた扇形の「標示器」が突き出るようになっている。看守がそれを見て、扉の小さいのぞき[#「のぞき」に傍点]から「何んだ?」と、用事をきゝに来てくれる。
昼過ぎになると、担当の看守が「明日の願い事」と云って、廻わってくる。
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キャラメル一つ。林檎 十銭。
差入本の「下附願」。
書信 封緘《ふうかん》葉書二枚。
着物の宅下げ願。
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運動は一日一度――二十分。入浴は一週二度、理髪は一週一度、診察が一日置きにある。一日置きに診察して貰えるので、時にはまるで「お抱え医者」を侍《はべ》らしているゼイタクな気持を俺だちに起させることがある。然し勿論その「お抱え医者」なるものが、どんな医者であるかということになれば、それは全く[#「全く」に傍点]別なことである。
夜、八時就寝、たっぷり十一時間の睡眠がとれる。
俺だちは「外」にいた時には、ヒドイ生活をしていた。一カ月以上も元気でお湯に入らなかったし、何日も一日一度の飯で歩き廻って、ゲッそり痩《や》せてしまったこともある。一週間と同じ処に住んでいられないために
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