洗う。その頃に丁度「点検」が廻わってくる。一隊は三人で、先頭の看守がガチャン/\と扉を開けてゆくと、次の部長が独房の中を覗《のぞ》きこんで、点検簿と引き合せて、
「六十三番」
 と呼ぶ。
 殿《しんが》りの看守がそれをガチャン/\閉めて行く。
 七時半になると「ごはんの用――意!」と、向う端の方で雑役が叫ぶ。そしたら、食器箱の蓋の上にワッパと茶碗を二つ載せ、片手に土瓶を持って、入口に立って待っている。飯の車が廊下を廻わってくるのだ。扉が開いたら、それを差出す。――円るい型にハメ込んだ番号の打ってある飯をワッパに、味噌汁を二杯に限って茶碗に、それから土瓶にお湯を貰う。味噌汁の表面には、時々煮込こまれて死んだウジに似た白い虫が浮いていた。
 八時に「排水」と「給水」がある。新しい水を貰って、使った水を捨てゝもらい、便器を廊下に出して掃除をしてもらう。(これが一日に二度で、昼過ぎにもある。)
 それが済むと、後は自由な時間になる。小さい固い机の上で本を読む。壁に「ラジオ体操」の図解が貼りつけてあるので、体操も出来る。
 独房の入口の左上に、簡単な仕掛けがあって、そこに出ている木の先を押すと、
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