せずに、そのまゝ二三度繰りかえしていると思えば何んでもない、と云って笑った。
「アパアト住い」と云い、又この「欧州航路」と云い、こゝにいるどの赤い着物も、そんなことを自分の家にいるよりも何んでもなく云ってのける。
用意が出来ると、この床屋さんが後に廻りながら、
「バリカンで、ジョキ/\やってしまうぜ。」
と云った。
それは分っていて……しかし云われてみると、矢張りギョッとした。
「頼む! 少しは長くしておいてくれよ。」
「こゝン中にいて、一体誰に見せるんだ。」
と云って、クッ、クッと笑った。
「そうか、そうか、分った。面会に来る女《ひと》があるんだろうからな――」
それで俺の髪だけは助った。然しこの理髪師はニキビであろうが、何んであろうが、上から下へ一気に剃刀《かみそり》を使って、それをそり[#「そり」に傍点]落してしまった。
俺がヒリ/\する頬を抑えていると、ニヤ/\笑いながら、
「こゝは銀座の床屋じゃないんだからな。」
と云った。
赤色体操
俺だちは朝六時半に起きる。これは四季によって少しずつ違う。起きて直ぐ、蒲団を片付け、毛布をたゝみ、歯を磨いて、顔を
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