ている名前のあるのに目がとまった。それは名の知れている左翼の人で、最近どうして書かなくなったのだろうと思っていた人だった。ところが、此処にいたのだ。この人も! そう思うと、俺は何んだか急に気が強くなるのを感じた。
 それから「仮調所」に連れて行かれて、裸かにされた。チンポも何もすっかり出して、横を向いたり、廻われ右をしたり、身体中の特徴を記録にとられた。俺は自分でも知らなかった背中のホクロを探し出された。其処《そこ》で、俺は「青い着物」をきせられたのだった。
 青い着物を着、青い股引《ももひき》をはき、青い褌《ふんどし》をしめ、青い帯をしめ、ワラ草履《ぞうり》をはき、――生れて始めて、俺は「編笠《あみがさ》」をかぶった。だが、俺は褌まで青くなくたっていゝだろうと思った。
 向うのコンクリートの建物の間を、赤い着物をきた囚人が一列に並んで仕事から帰ってくるのが見える。
 俺は始め身体がどうしても小刻《こきざ》みにふるえて、困った。
「どうだ、初めての着工合は……」
 と看守が云った。
 俺は、知らないうちに入っていた肩から力を抜いて、ゆっくり、大きく息を吸いこんだ。
「この廊下を真ッ直ぐ
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