モウのめないのだ!
晴れ上がった良い天気だった。
トロッコのレールが縦横に敷かさっている薄暗い一見地下室らしく見えるところを通って、階段を上ると、広い事務所に出た。そこで私の両側についてきた特高が引き継ぎをやった。
「君は秋田の生れだと云ったな。僕もそうだよ。これも何んかのめぐり[#「めぐり」に傍点]合せだろう。僕から云うのも変だが、何よりまア身体を丈夫にしてい給え。」
ずんぐりした方が一寸テレ[#「テレ」に傍点]て、帽子の縁に手をやった。
ごじゃ/\と書類の積まさった沢山の机を越して、窓際近くで、顎《あご》のしゃくれた眼のひッこんだ美しい女の事務員が、タイプライターを打ちながら、時々こっちを見ていた。こういう所にそんな女を見るのが、俺には何んだか不思議な気がした。
持ちものをすッかり調らべられてから、係が厚い帳面を持ってきて、刑務所で預かる所持金の受取りをさせられた。捕かまる時、オレは交通費として現金を十円ほど持っていた。俺たちのように運動をしているものは、命と同じように「交通費」を大切にしている。――印を押そうと思って、広げられた帳面を見ると、俺の名から二つ三つ前に、知っ
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