合っていた。
昼休みの様子をみていると、青年団の「満洲王国」の話は、何んだか夢のような、それは信じていいのかどうか、若しも本当だとすればいゝがという程度だったが、清川たちの話には臨時工などが賛成だった。戦争に行って死んだり、不具になったり、又結局「満洲王国」と云ったところで、そんなに自分たちのためになるかどうか分ったものでない、然《しか》しとにかく戦争があったゝめに自分達は長い間の失業からどうにか職にありつけたのである、だから仕事は臨時工だというので手当もなく、強制残業させられたり、又たゞ臨時工だからというので本工と同じ分量の仕事をしているにも拘らず賃銀が安かったりするのが不満だったが、とにかく戦争のお蔭《かげ》を蒙《こうむ》っていると考えていた。
清川のように自分が少なくとも「労働者のための」政党である大衆党の一人であるということさえも忘れて、まるで資本家にでもなったようにその株の値段を心配してやったり、そのお蔭《かげ》のことを考えているような意見でも、職工たちの(殊に臨時工の)目先きだけの利益を巧みにつかんでいるのである。
伊藤は、自分[#「自分」に傍点]や自分たちの仲間は、
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