の戦争で、我々も及ばずながら、その与えられた部署々々で懸命に働かなければならない、と云っていた。
僚友会の清川や熱田は、今度の戦争は結局は大資本家が新しい搾取を植民地で行うための戦争であると云って、昼休みに在郷軍人や青年団の職工などゝ議論をした。ところが清川は、たゞ今度の戦争は他の方面ではプロレタリアのために利益をもたらしている例えば金属や化学の軍需品工場などでは人が幾ら居ても足りない盛況だし、それは所謂《いわゆる》「戦争株」の暴騰を見ても分る、(そして何処で聞いてきたのか)帝国火薬の株はもと四円が今九円という倍加を示しているし、石川島造船は五円が二十五円という状態になって居り、弾丸製造に使うアンチモニーは二十円前後の相場が今百円位になっている。更に、ドイツは世界戦争で負けて減茶々々になったと思っているが、クルップ鉄工場などは平時の十倍もの純益をあげている。それだけ又我々の生活もお蔭《かげ》を蒙《こうむ》るのだから、一概に戦争に反対したって始まらない、その限りで利用しなければならない、そういうのが彼等の意見だった。こゝへくると、はじめ青年団や在郷軍人と議論していても何時の間にか意見が
前へ
次へ
全142ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング