ともハッキリしている。
「君の方はどうなんだ?」
と須山にきくと、彼は、自分の方にはまだハッキリと現われていないが、と一寸考えてから最近昼休みなどに盛んに戦争のことなどについてしゃべり廻って歩いている男がいると云った。「伊藤君の今の報告で気付いたのだが」と、彼は今迄は昼休みなどに皆の話題になるのは戦争の話だとか、景気のことなどだったが、それについては皆が何処かゝら聞いてきたことや、素朴な自分の考えやを得意になって一席弁じたてたり、又しょげ込んで話したりするのだが、気付いてみると、そういうのとはちがった、何処か計画的に、煽動《せんどう》的にしゃべり廻っている奴がいるらしいと云うのだ。――これでもってみると、向うが全面的にやり出していることは、最早《もはや》疑うべくもなかった。
そして我々が彼等に勝つためには、敵の勢力の正確な、科学的な認識が必要だった。今彼等は自分たちが上から[#「上から」に傍点]従業員を無理\強《じ》いするだけでは足りないということ、又工場の往き帰りを警察の背広で見張りさせることだけでも足りないということを知って、第三段の構えとして職工たち自身の中から我々の組織の喰込
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