あり、戦争が始まってから特別に雇われて入ってきたということが分った。それからその男に注意していると、第一工場にも第三工場にも仲間がいるらしい。時間中でも台を離れて、他の工場に出掛けてゆくことがあった。注意していると、オヤジはそれを見ても黙っていた。それに最近は倉田工業内に以前からあった(あったが今迄何も運動していなかった)大衆党系の「僚友会」の清川、熱田の連中とも往き来しているらしいことが分った。
おかしなことは、今迄何もしていなかった僚友会が此の頃少し動き出していること、第二には(それは何処から出ているのか、ハッキリは分らなかったが、)国家非常時のときでもあるし、重大な責任のある仕事を受け持っている我々は他の産業の労働者よりもモット自重し緊張しなければならない、そこで倉田工業内の軍籍関係者で在郷軍人の分会を作ろうではないかという噂さが出ていること。工場長などは賛成らしいが、それは特別に雇われた連中から出ているらしく、僚友会も一二のものがそれに助力していることは確かだった。たゞそういうことは会社が表に立ってやるのでは効果が薄いので、職工の中から自発的に出てきたという風に策略しているこ
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