年になればなる程、成績が優秀なので、「五カ年計画を六カ年で[#「五カ年計画を六カ年で」に傍点]!」というのがスローガンである。そのためには、日常行動を偶然性に頼っていたのでは駄目なので、科学的な考顧の上に立って行動する必要があった。笠原は時々古本屋から「新青年」を買ってきて、私に読めと云う。私もどうやら時には探偵小説を、真面目《まじめ》に読むことがある。
 次の日、定期の連絡に行くと、須山は私を見るや、「よかった、よかった!」と云った。彼は私が(私は約束を欠かしたことがないので)やられたものとばかり思い、実は君の顔を見るまで、悪い想像ばかりが来て弱っていたと云うのである。私は昨日の側杖《そばづえ》を食ったことを話した。そして、
「五カ年計画を六カ年で、じゃないか!」
と、笑った。
「それはそうだが……」
 昨日私が「人殺し」の側杖をくって「エンコ」が出来なかったので、須山は今日それが出来るように用意してきていた。場所は伊藤の下宿だった。彼女はこゝ一二日のうちにそこを引き移るので、下宿を使うことにしたのである。下宿人が七八人もいるので、条件はあまり良くはなかった。私は若し小便が出たくなっ
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