に側杖《そばづえ》を食った。が、彼奴等はえ[#「え」に傍点]てそんな事件を口実にして、「赤狩り」をやったのだ。現に彼奴等はその度毎に「思わぬ副産物があった」とほざい[#「ほざい」に傍点]ているのがその証拠だ。Sによると、外国の雑誌に、日本では夜遅く外を歩く自由も、喫茶店で無理矢理な官憲の点検を受けずには、のんびりと話し込む自由[#「自由」に傍点]もないと書いてあるそうだが、それは本当だ。そしてそれは特に我々への攻撃のためである。
 私は常に新聞に注意し、朝出るときとか、夜出るときは、自分の出掛ける方面に何か事件が無いかどうかを調べてからにした。殊に今迄逃げ廻わっていた人殺しとか強盗が捕ったりした記事は隅《すみ》から隅まで読んだ。その時には自分の取っている新聞ばかりでなく、色々な新聞を笠原に買わして、注意して読んだ。ある時七年間隠れていたという犯人の記事などは多くの点でためになった。私は毎朝の新聞は、まずそういう記事から読み出した。
 ――私は今一緒に沈ん[#「沈ん」に傍点]でいるSやNなどの間で、「捕かまらない五カ年計画」の社会主義競争をやっている。それは五カ年計画が、六カ年になり七カ
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