持っているので、今日の会合をどうしようかと思った。そう思いながら、まだ決まらず歩いていると、交番のところにも巡査が二三人立っていて、驚いたことには顎紐《あごひも》をかけている。途中から引ッ返えすことはまず[#「まず」に傍点]かったが、仕方なかった。私は一寸《ちょっと》歩き澱《よど》んだ。すると、交番の一人がこっちを見たらしい、そして私の方へ歩いて来るような気配を見せた。――私は突嗟《とっさ》に、少しウロ/\した様子をし、それから帽子に手をやって、「S町にはこっちでしょうか――それとも……」
と、訊いた。
巡査は私の様子をイヤな眼で一《ひと》わたり見た。
「S町はこっちだ。」
「ハ、どうも有難う御座います。」
私はその方へ歩き出した。少し行ってから何気なく振りかえってみると、私を注意した巡査は後向きになり、二人と何か話していた。畜生め! と思った。そして私は懐《ふところ》の上から「ハタ」や「パンフレット」をたたいた。「口惜しいだろう、五十円\貰《もら》い損いして!」
私は万一のことを思い、とう/\家へ帰ってきた。次の朝新聞を見ると、人殺しがあったのだった。私たちはよく別な事件のため
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