長い時間働かせられたら、たまったもんでないし、それにたまにあの人と二人で活動写真位は見たいもの、ねえ――」
みんなが笑って、「本当よ!」と云った。
「それにはこんな日給じゃ仕様がないわ!」
「そう。少し時間を減らして、日給を増してもらわなかったら、恋も囁やけない[#「恋も囁やけない」に傍点]と来ている!」
「実際、会社はひどいよ!」
「私んとこのオヤジね、あいつ今日こんなことを怒鳴ったの、今はどんな時だか知っているか、戦争だぞ、お前等も兵隊の一部だと思って身を粉にして働かなけアならないんだ。もう少し戦争がひどくなれば、兵隊さんと同じ位の日給でドシ/\働いてもらわなくてはならないんだ。それが国のためだって。――ハゲッちョそんなことを云ってたよ!」
これには伊藤も吃驚《びっくり》してしまった。「恋を囁やく」話が伊藤さえもがそれと気付かぬうちに、会社の待遇の問題に入って行っているのだ。このところサクラまであっけ[#「あっけ」に傍点]にとられた形だった。話はそれから少しの無理押しつけというところもなく、会社の仕打ちに対する攻撃になった。
私はその話を伊藤から聞き、本当だと思った。戦争が始
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