まってから労働強化は何処でもヒドクなっているのだが、同一の労働(或いは同一以上の労働)をしているにも拘《かかわ》らず、女工に対する搾取は急激に強まっている。今では全く「恋を囁《ささ》やく」ということさえも、その経済上の解決なくしては不可能になっている。それを皆はそういう言葉としてではなしに感じているのだ。
 伊藤は最近この連中を誘って、何か面白い芝居を見に行くことになっていた。伊藤や辻や佐々木は、皆が浅草のレヴューか片岡千恵蔵にしようと考えているので、それを「左翼劇場」にするためにサクラでアジることになっている。
 私は伊藤の報告のあとでそのグループに男工[#「男工」に傍点]をも入れること、それは須山と連絡をとってやればそんなに困難なことではなく、一人でも男工が入るようになれば又皆の意気込がちがうこと、もう一つの点はそのグループを臨時工ばかりにしないで本工[#「本工」に傍点]を入れるようにすること、このことが最も大切なことだ、と自分の考えを云い、彼女も同意した。
 それから私達は六百人の首切にそなえるために、今迄《いままで》入れていたどっちかと云えば工新式のビラをやめて、ビラと工場新聞
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