での時間を、会社は夜業の賃銀から二銭\或《ある》いは三銭(わざ/\計算をして)差引いてさえいた。――飯を食っていたとき、私は云った「すると、会社は職工というものが飯を食わないで働かせることの出来るものだッて風に考えているんだネ。」一緒に働いていた臨時工の一人が「あゝ、そうだ……」と云った。その「あゝ、そうだ」がよく出来ている[#「よく出来ている」に傍点]というので、皆は笑った。会社は毎日の賃銀の支払に、四百人近くいる女工に一々その端数の八銭を、五銭一枚に一銭銅貨を三枚ずつつけて払った。それは大変な手間だったのだ。六時に退けても、そのために七時にさえなった。「糞《くそ》いま/\しい! 八銭を十銭にしたら、どの位手間が省けるか知れねえんだ。何んならこッちから負《ま》けて、八銭を五銭にしてやらア。」皆は列のなかでジレ/\して騒いだ。「金持の根性ッて、俺達に想像も出来ねえ位執念深いものらしい!」
 ところが、臨時工の首切りの時に会社が一人宛《あて》十円ずつ出すという噂《うわ》さが立っていた。臨時工だから別に一銭も出さなくてもいゝ約束だが、皆がよく働いてくれたからというのが其《そ》の理由らしかっ
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