ていた。それで、しるこ屋などで伊藤は「それらしいこと」を話しても別に不自然でなかった。辻と佐々木は「サクラ」をやった。みんなと一緒になり、ワザと色々な、時には反動的なことを伊藤に持ち出して、そういうことについて話のキッカケを作らせた。それは始めのうちはお互いの調子がうまくとれないで、どまつき、同じところをグル/\めぐりをしたりした。或《あ》るときなどはグル[#「グル」に傍点]になっている化けの皮が剥《は》げそうになって、ヒヤ/\した。そんな時は、終ってしるこ屋の外に出ると、三人とも自分がぐッしょり汗をかいているのに気付いた。が、一回、二回、と眼に見えて巧妙になって行った。サクラになるものが上手だと少しの考えもなく、たゞ友達位のつもりで付いてきた女工をもうま/\と引きつけることが出来た。だからサクラになるものは、意識の低い、普通の女工が知らずに抱いているような考えや偏見などをハッキリ知っていなければならなかった。
 女工たちは集まると、話すことは誰と誰が変だとか、誰と誰がくッついたとか、くッつかぬとか、そんなことばかりだった。伊藤が連絡のとき、こんなことを私に話したことがある。――マスク
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