律に屈服したことになるというのだ。共産主義者・党員にとっては敵の規律にではなく、我々の鉄の規律に従わなければならないことは当然だ、と云っていた。今彼は自分で実際にそれを示していたのだ。
「ヨシ公はシャヴァロフって知ってるか?」
と、須山が云った。
「マルクス主義の道さ。」
「又切り抜帳《スクラップ・ブック》か?」と私は笑った。
 「シャヴァロフはつかまったとき、七カ月間一言もしゃべらないでがん張ったそうだ。そして曰《いわ》くだ、――一人の平凡人にとって[#「平凡人にとって」に傍点]は、如何《いか》なる陳述もなさない事、即ち俺が七カ月頑張った其の戦術に従うに越したことはない、と云っている。」
 それを聞くと、伊藤は、
 「ところが、この前プロレタリアの芝居にもなったことのある私達の女の同志は、ちゃんと向うに分かっている自分の名前や本籍さえも云わないで、最後まで頑張り通して出てきたの。――シャヴァロフ以上よ!」
と云った。
 彼女はそれを自分のことのようにいった。須山はそれで口惜《くや》しそうに顔をゴス/\掻《か》いた。
 そこで、私達は、「一平凡人として」敵の訊問《じんもん》に対しては一
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