須山が私の家に寄るときに、私は四年でも五年でも帰られないことをハッキリ云ってもらうことにした。そして私を帰られないようにしているのは、私が運動をしているからではなくて、金持ちの手先の警察なのだから。私をうらむのではなくて、この倒《さかさ》になっている社会をうらまなくてはならない事を云ってもらうことにした。うやむやのことより、ハッキリしたことが分らせれば、かえってそこに抵抗力が出てくる。それに、私の知っている仲間が警察につかまって、それが共産党に関係があると云われると、残された家族の妻とか母親とかゞ、私の夫とか息子にはそんな「暗い陰[#「暗い陰」に傍点]」が無いとか、「罪にひッかけようとして」共産党だなどゝ有りもしない事実を云っているのだとか、そんなことを云っていたものがあった。だが若《も》しもそうだとすれば、共産党というものは「暗い影」であり、又共産党なら罪にひッかけてもいゝのだということを、これらの仲間の残された人たちが自分の口から云っていることになる。私は、六十の母親だが、私の母親がそれと同じように考え或《ある》いは云ったりしてはならないと思った。私の母親はその過去五十年以上の生涯
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