一緒になることを考えてみた。非合法の仕事を確実に、永くやって行くためにも、それは都合がよかった。
 下宿に男が一人でいて、それが何処にも勤めていなくて、しかも毎夜(夜になると)外出する――これこそ、それと疑われる要素を完全に揃《そろ》えていることになる。工場に勤めていた時は、そんな点はまあよかったが。殊に一晩のうちに平均して三つか四つ連絡があって、その間に一時間もブランクがある時には、外でウロウロしているわけにも行かず、一《ひと》まず家に帰ってくる。そして又出掛ける。そんな時、おばさんは現実に奇妙な顔をした。何をして食っているんだろう? おばさんの奇妙な顔はそう云っている。こういう状態だと、戸籍調べの巡査が来た時に、直ぐ見当をつけられてしまうおそれがあったのだ。
 笠原は会社に勤めているので、朝一定の時間に出る。そうなれば私がブラ/\しているように見えても、細君の給料で生活しているということになる。世間は一定の勤めをもっている人しか信用しないのだ。――それで私は笠原に、一緒になってくれるかどうかを訊《き》いた。それを聞くと、彼女は又突然あの大きな(大きくした)眼で私の顔を見はった。彼女
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