てあげようよ」伊藤ヨシは太田の事件を直ぐそんな風にとりあげて、金や品物を集めた。七人程がお金を出した。その中には太田を好きだという女もいた。ヨシは太田のことからビラの話をし、工場の仕事の話などから、とう/\八人ほどを仲間にすることに成功した。彼女は長い間の工場生活から、どんなことを取り上げると皆がついて来るか知っていた。それにパラシュートの方は殆んど女ばかりだったので、太田などはなか/\「評判」だった。彼女はそれをも巧みにつかんだのだ。彼女は八人のうちから積極的なのを選んで、「倉田工業内女工有志」という名を出して、警察に差入にやった。サルマタ、襦袢《じゅばん》、袷《あわせ》、帯、手拭《てぬぐい》、チリ紙、それに現金一円。警察では、その女をしばらく待たして置いてから、中《なか》で太田が志は有難いが、考える処あって貰えないと云っているから持って帰れと云った。慣れない女は仲間の四五人と一緒に、その差入物を持って帰ってきた。伊藤は自分が以前警察で、勝手にそんなカラクリをさせられた経験があるので、もう一度警察に行って、無理矢理に差入物を置かせて来た。――ところが、後で須山から太田のことを聞かせら
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