山も笑った。
それで私達は太田のレポは自分のやったことを合理化するために書かれているということになった。そんなことよりも、私達は太田が警察でどういうことを、どの程度まで陳述しているかということが知りたいのだ。それによって、私達は即刻にも対策をたてなければならぬではないか。私は、太田はこのようではキット早く出てくるが、こういう態度の奴は一番気をつけなければならぬ、と思った。
然し工場では、働いているところから太田が引張られただけ、それは尠《すく》なからず衝動を与えた。今迄ビラを入れてくれていた人はあの人であったのか、という親しい感動を皆に与えた。しかも、事ある毎にオヤジから「虎《とら》」(ウルトラという意味)だとか、「国賊」だとか云われていた恐ろしい「共産党」が太田であり、それは又自分たちには見えない遠い処の存在だと思っていたのに、毎日一緒にパラシュートの布にアイロンをかけて働いていた太田であることが分ると、皆はその意外さに吃驚《びっくり》した。「太田さんは何時でも妾《わたし》達のことばかり考えてくれて、それで引張られて行った人だから、工場の有志ということにして、何んか警察に差入れし
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